序文 死生観①

 

これは、"音楽をやるひと"としてではなく、

肩書きも役割もない、ただの人としての興味の話です。

 

 

 

僕はひとの生き死にに興味があります。

それは誰もが経験するのに誰もが経験したことがないことで、未知が詰まっているからです。

 

遅かれ早かれ、いずれ僕は死にます。

それまでに僕は、幾度かひとの死に出合うでしょう。

 

死ぬとき、僕がどうなるのか、

死ぬとき、そのひとがどうなるのか、

生き残されるひとがどうなるのか、

そういうことに興味があります。

 

僕は、いつか死ぬことを考えるとき、だいたい2回に1回の頻度で強い恐怖を感じます。

それ以上思考することを妨げるような、肉体的衝動、手が強く震えたり、意図してないのに急に立ち上がったり、大きな声が出たり、そういうことが起きます。

そんなわけで、「地球上から僕が居なくなること」、その表面より先を考えられたことがありません。

……ひょっとしたら、その先の深淵は覗き込まない方がいいのかもしれませんが、

それでも僕は知りたいと思うのです。死、ということを。

 

 

ただ、死は、少なくとも僕の周りではあまりおおっぴらに語られません。

それが日本人特有のことなのか人類共通のことなのかは分かりませんが、

誰かが忌避しているのは確かでしょう。

 

また、今の僕では死について議論することは難しいでしょう。

ただでさえ少しでも考えようとすると逃げてしまうのだから。

 

 

議論できないのなら、

過去生きたひとたちがどう思っていたのか、

今生きているひとたちがどう思っているのか、

そういう「記述」に当たって、

考えてみようと思いました。

 

 

というわけで、

死が書かれている本や漫画、音楽に出会ったら、

その記述とともに、死について考えていきたいと思います。

 

 

 

【死について考えるラインナップ(順不同、随時追加)】

 

・『イワン・イリッチの死』 レフ・トルストイ

www.hanmoto.com

 

・『死ぬ瞬間』 エリザベス・キューブラー=ロス

www.hanmoto.com

 

・『現代の死に方』 シェイマス・オウマハニー

www.hanmoto.com

 

・『死後』 正岡子規

www.aozora.gr.jp

 

・『死とどう向き合うか』 アルフォンス・デーケン

www.hanmoto.com

 

・『死への準備教育のための120冊』 アルフォンス・デーケン

www.hanmoto.com

強いひとと弱いひと

 

強いひとと弱いひとを、僕が好いている話です。

 

 

僕は強いひとが好きです。

強いというのは、精神的に自立しているという意味で用いています。

確固たる自我を持ち、自己決定ができ、自己判断ができるようなひとのことを指します。

 

僕は今までで6人ほど、そういうひとに出会いました。

うち2名ほどはあまり関わりたくないと思う類の「無敵の人」でした。

今日は、関わりたくない人を考えるなんて無駄はせず、好きな4人の強いひとについて考えたいと思います。

 

 

ひとりめ:会長

僕が所属する音楽団体の長を務めるひとです。

活動力で人を殴るタイプです。これと決めたら始め、周囲を巻き込んで、ことを広げていきます。

活動仲間としての友人は多く、恐らく彼を好いている人も多いので、何か困ったときに彼の力になりたいと思う人は多いでしょう。

 

 

ふたりめ:後輩

所属する団体の年下の子です。

賢く、聡い。己がどんな振る舞いをすると、誰にどんな影響を与えるか、理解して動いているのだろうと思う瞬間が多く見受けられます。

また、自己の価値観を強く持っているので、対話や対人戦に強いです。

 

 

さんにんめ:神さん

僕の友人の友人です。神さんは渾名です。

場の空気を大事にしますが、自身がどうしても嫌なことは決してやりません。また、己の流儀に反することをする相手にはきちんとそれを伝えますし、言葉が伝わらない相手に対して距離をとるのが抜群にうまいです。

懐に入れた仲間は食べちゃうくらい大事にします。

 

 

よにんめ:上司

直属の上司です。4つほど年上の方。

物腰が柔らかく、どんな相手にも丁寧に接します。立場上、後輩である僕を気にかけてくれることも多いです。

有事の際に頼りになるのは自分の肉体だけ、とのことで、鍛えていらっしゃいます。筋肉痛で苦しむ姿を見ることが多いです。

 

 

 

彼らはとても強いひとです。

関わっていくほど、会話の端端にその自意識のつよさをみつけます。相対して話している僕を、歯牙にもかけない意志の強さをみつけます。

僕はそれを、とても心地よいと思います。

彼らは僕を必要としないでしょう。

僕を必要としないひとは、僕がどれだけ愚かで矮小な人間だったとして、気にしないでしょう。

それに安心して、僕は彼らとつきあうことができます。

 

と言うわけで、僕は強いひとが好きです。

 

 

 

強いひとは好きですが、弱いひとが嫌いなわけではありません。

この場合の弱いは、精神的自立に至っていないか、自己決定に不安があるか、自己判断に迷いがあるひとを指します。

 

僕はむしろ弱いひとのほうが、つきあいやすく思います。

そのひとたちの前では、僕に存在価値があるからです。

 

迷うひとたちとお話しすることは好きです。

考えて伝えたことが少しでも影響を与えられたら。

話し相手として一度でも必要とされたら。

僕の言葉を求めてもらえたら。

そこには、僕のいた意味があるでしょう。

 

 

僕は自分で自分に価値を感じません。そのかわり、誰かが僕を用いてくれるその事実に価値を見出します。

そのため、価値=存在する意味を感じさせてくれるひとの傍を心地よく思います。

 

ただ、そのひとたちの傍に長くは居られません。

長く居れば、そのひとにとって僕より価値のあるひとが現れるでしょう。

そしてそのときに自分の無価値を見出すでしょう。

だからその前に去ります。価値があった自分を抱えて逃げます。

そうして転々と、弱さを持つひとのなかで生きています。

 

僕は、弱いひとが大好きです。

いつまでも弱いひとを探して生きていくかもしれません。

 

 

結果、強くても弱くても、僕と会話してくれるひとが好きなので、

そんな感じで末永くおつきあいいただければとぞんじます。

『せんせいのお人形』を読む0-1 はじめに

 

好きな漫画があります。

『せんせいのお人形』(藤のよう)という作品です。

ネグレクトを受けていた女子高生スミカが、教師の吉成昭明に引き取られ、再生していく物語です。

タイトルで忌避している人も多いそうで、僕もそうでしたが、

思ってたようなエログロじゃなかった。

全然健康で、学びの多い作品です。

 

 

この作品、とっても好きなのですが、

どこがどう好きなのか、全然語れません。

それは僕の読解力の問題でもありますし、

語る訓練をしてこなかったせいでもあります。

 

 

でも、

せっかくいい作品に出合ったのですから、

ここがこう好き! ぜひ読んでほしい! と、

人に紹介できるようになりたいのです。

 

できれば、誰かから借りてきた言葉でではなく、

自分がよいと思う言葉で、すきを表したいのです。

 

 

というわけで、

2020年は、『せんせいのお人形』の読解の年とします。

(ここで言ってしまうことで、逃げられなくなる効果も期待します)

 

・読解に使う手法の参考文献をこちらのエントリーに追加することとします。

・読解には主に「Kindle版 『せんせいのお人形』」を用いますが、

 僕自身は紙版・Kindle版・comico版全部に当たれる状態にします。

(今日comico版見たら少し修正加筆されてたので、念のため)

 

 

 

物語への僕の基本姿勢は、下記引用と同一であります。

 最後に、小説を批判的に読む場合の規則であるが、これは、次のような心得になる。「作家が読者に経験させようとしたものを十分に感得できるまでは批判をしてはならない」。作家の創造した世界に疑問を抱かないのがよい読者である。

「作品の好ききらいを言う前に、読者は、まず作品を誠実に味わうよう努力すること」。味わうとは、作家が読者の感情や想像力にはたらきかけて作り出そうとした経験を、する(・・)ことである。

『本を読む本』

M. J. アドラー、C. V. ドーレン/外山滋比古、槇未知子 訳 P207~208

 

 

 

すべてのシーンの、すべてのものの動きを、

余すことなく味わいたい、一つも漏らすことなく経験したい。

それを原動力に、読んでいきたいと思います。

 

 

 

紙媒体でも2巻まで出てますし、

なんならcomicoで全話読めるので、興味がわいたら読んでください。

そして僕と、作品について語り合ってくれる仲間になってくれたら、とてもうれしいです。

 

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【参考文献】

本を読む本 Amazon

  M. J. アドラー、C. V. ドーレン/外山滋比古、槇未知子 訳/講談社学術文庫

ナボコフの文学講義 Amazon

  ウラジミール・ナボコフ/野島秀勝 訳/河出文庫

イデア大全 公式HP

  読書猿/フォレスト出版

 

【参考ブログ】

読書猿Classic: between / beyond readers

┗ 難しい本を最後まで読むのに人間が昔からやってきたこと

┗ 書くのに必要なすべてのものー野田のフロー(流れ)図と創作系記事まとめ

 

 

※随時更新

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【媒体へのリンク】

comico

www.comico.jp

 

 

Kindle

https://www.amazon.co.jp/dp/B07P2D8H3X/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_ZhMwEbFR1S4W2

 

・紙(Amazon

https://www.amazon.co.jp/dp/4046041129/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_4gMwEbWMD5JHE

初恋 短歌食②

砂山の砂に腹這ひ

初恋の

いたみを遠くおもひ出づる日

(すなやまのすなにはらばひ

 はつこひの

 いたみをとほくおもひいづるひ)

 

石川啄木『我を愛する歌』より

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知人の所属する合唱団で上を歌った音源を、知人経由で手に入れた。

 

合唱をやる人ならば、一度はソロを張りたいと思う曲らしい。

穏やかなメロディラインに、伸びやかに響くソリストの声。

コーラスのハミングのあとから現れる「はつこいの いたみをとおく とおく」からが見せ場だろう。

 

リリック・テノールと呼ばれた男性が歌う声に、僕は幾度となく耳を傾けている。

彼の歌声は、てらうところが全くない。

俺の歌を聴け!という力の込め方はしていない。だのに、どうしてこんなに届く声なのだろう。

 

僕は彼に会うことはなかった。ステージ上の彼の、生の歌声を聴くことができたら、どんなに幸せだっただろうと思う。

音源をくれた知人は、未だにこの音源を聴くことができないそうだ。思い出してしまうことが多すぎて。

 

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「初恋はいつだった?」

 君がのんびりとした声で問うた。今僕たちが恋人同士であることをすっかり忘れてしまったような声だ。

 僕は文字を書く手を止めた。顔を上げると、君がコーヒーマグを両手で包んで僕を見ている。瞳が面白がっていた。その細められた黒いまなこに僕が映っている。素直に答えてやるのは癪に障った。

「きみは?」

「質問で質問を返すか。わたしは中学生の時だったね」

「結構遅いんじゃないか? どんな恋だったのさ」

「ものがたりのような出会いだったよ」

 僕は手元のノートを閉じて、君の話を聞く体勢をとった。満足げに、君は語り出す。

「当時絶賛反抗期だったわたしは、夜な夜な家を飛び出しては散歩に明け暮れていた」

「反抗期とは思えない長閑さだな」

「中学生はお金ないからね。終電も終わった時間、保護柵の切れ目から、わたしは線路に進入して、レールの上を歩いていた」

「よく捕まらなかったね。不法侵入だろう」

「その線路、途中から廃線になった路線に入れたんだよ。そっちはひとけもなかったし。そもそも、時代的に緩やかだったな、そういうところは」

「へえ。それで? 君は死体探しにでも出かけたのかい?」

「スタンドバイミーの世代じゃないさ。残念ながら死体は見つからなかった。代わりにわすれられないものを手に入れたよ」

 

 その日は月が明るかった。

 わたしは廃線をずんずん進み、その果てまで行ってやろうという気持ちだった。その一日は、いい日じゃなかったから、むしゃくしゃしてたんだと思う。

 その線路がどこで終わってるか知らなかったから、太陽が昇るまでに、親に気付かれずに、家に帰れるかどうか分からなかったんだけど、そんなことは気にしないで、もうこの際、さいはてまで行ってみようかなって思ったんだ。

 少し肌寒かった。道中で買った缶コーヒーを懐炉代わりに、お供はそれだけ。携帯電話もない時代、怖いもの知らずが歩いていく。

 廃線に入って、三十分くらい歩いた頃だ。

 向かう道の先から物音がした。

 それまでわたしの、砂利を踏みしめる音しかなかった夜に、わたしの足とは違う動きをする音が生まれたんだ。

 とってもびっくりした。わたしは立ち止まった。心拍数が一気に上がるのを感じた。

 不法侵入がバレたんだと思った。向こうから、誰かが私を捕まえにきたと思ったんだ。ついてない日だった。わたしは家族に黙って家を出てきていた。身分を表せるものもなにも持っていなかった。逃げる道もなく、隠れる場所もない。守ってくれるものはなにもない。すごく怖い思いをした。

 でも、その音の持ち主の姿が見えたとき、さっきの思いは吹っ飛んだ。

 女の子だった。

 雑草の生い茂る線路の先から、こちらを見てこちらに向かってくるのは、わたしより少し年上の女の子だったんだ。

 近くの高校の制服を来た女の子。こんな深夜に女の子? 子どもが出歩いていい時間じゃない。危ないよ。いっぱい思うことはあったけど、一言も声にならなかった。ビビってたんだ。

 女の子はすたすたとこっちに近づいてきた。わたしはまた慌てた。焦るでしょ。気持ちの準備がまったくできてなかった。

 枕木5本分くらいまでわたしに近付いて、女の子はそこで初めて気づいたように足を止めた。

 で、第一声、なにを言ったと思う?

 「こんばんは」って。

 かわいい声でさ。挨拶してきたんだよね。

 途端に肩の力が抜けたよ。この状況で挨拶する? いやでも、まあ、挨拶する人はいいよね。尊敬する。最高だと思ったよ。

 わたしもこんばんは、って返した。

 彼女、ほかに会話するでもなく、それ以上なんにも言わずに、そのまま真っ直ぐ歩いてきて、私とすれ違って、で、足も止めずに去ってった。

 慌てて振り返った。彼女は全く立ち止まらなかった。どんどん遠くなる背中は、最後まで一度も振り返らなかった。

 彼女の黒っぽい制服が完全に闇に消えたとき、ようやくわたしは笑えてきた。深夜の線路上で生身の他人が出会ったのに、挨拶で終わったんだ。ふつうもっとなんかあるだろ! 全くなにごともなかったね。

 その日はもうそれより先に行く気がなくなっちゃったから、帰った。結構早足で戻ったんだけど、彼女には追いつけなかった。線路上にもう姿は見あたらなかった。

 幽霊だったかな? って思ったけどさ。生きている人だったよ。その日から何度か、線路上の邂逅をするようになったんだ。

 彼女は、月の出る明るい夜にしか会えない女の子になった。

 わたしはちょうど、多感な時期だった。家にも学校にも居場所がないと思って、飛び出しちゃうような青い時期だったんだ。そんなときに、そんな運命の出会いをした。

 会う度に胸高鳴るとかさ、太陽の下でも彼女のこと考えちゃうとかさ。会って何を話そうか、何を話してくれるか。今日は少し長く会いたいな、何時くらいに家を出ればいいだろうか、とか、ずっと考えていた。

 夜になれば会える。会えば、わたしから話題を振った。自分の身の回りのこと。中学のことや家族のこと、その日見たもの聞いたもの、したこと、されたこと。

 そうしたら彼女は、同じように彼女の話をしてくれた。高校のこと、彼女の妹のこと。たかだか3つしか違わなかったけど、全然違う世界の話を聞いているようだった。彼女が話す彼女の世界は輝いていた。

 雨が降った日は、彼女は線路に現れないから、とっても寂しい思いをして、明日晴れたら何話そうってことばかり考えていたよ。

 寝てもさめても頭の中は彼女のことばかり。

 そんな、初恋だったよ。

 

「熱烈な恋だな」

「そうだね」君は遠くをみるように、目を眇める。「もう、あれ以上の恋はできないと思う」

 夢を見るような、ふわふわとした君の声。幼くて無邪気な笑顔。

 僕は蚊帳の外であることを強烈に感じた。時間の蚊帳の外だ。薄い膜を隔てた先で、過去の君と女の子が夜道を歩いている。

「それで?」僕は強いて声を出した。

 君を今に引き戻したかった。「その女の子とは、その後どうなったの? 君とそんなに親しかったひとが居たなんて知らなかったよ」

「そりゃそうだ。初めて君に話したもの」

 君はふ、と笑った。目尻に皺が寄って、今の君のほほえみをかたどった。「彼女はもういない」

 

「そうなのか」

「うん。ほら、初恋は叶わないっていうでしょう? 例に漏れずわたしの恋も成就しなかった。今では甘酸っぱい思い出さ」

「今でも思い出したりするのかい? もう数十年前の話だろう」

「全然思い出すよ。思い出しているうちに、いたたまれなくなって、恥ずかしくて痛くて、思わず転がったりするもん」

「転がる」

「腹這いになって喚く」

「腹這いに? いや、恥ずかしさに喚くなら仰向けになるんじゃないか?」

「ううん、腹が下の方がいい。仰向けになると声が飛んで行っちゃうだろう? 恥ずかしさを撒き散らしちゃう」

「それは更に恥ずかしそうだ。なら、うずくまりたい?」

「声がこもって反響してくるのはつらいな。もっと恥ずかしくなりそうだよ。どうせなら、そうね、砂山に腹這いになって叫びたい。砂に吸収してほしい」

 君は神妙な顔をして言った。僕は、君が砂まみれになりながらあの日の少女を想う姿を想像する。口の中がじゃりじゃりして、少女に集中できなさそうだった。

「初恋を悼みながら砂に顔をつっこむのか。すごい絵面だなあ」

「そんなすごい恋をしたんだよ」

 君はにっこり笑った。

 初恋が叶わないのは、こうして笑う為なのかもしれなかった。

「んで、君の初恋はどんなものだった?」

「僕も、ものがたりのような初恋だよ。でも、君のように熱烈なものとは違って、のんびりした初恋さ。初恋相手の初恋の話を聞くような、ね」

 また初恋が終わらない僕に、いつか今日を思い出して誰かに笑いかける日が来るのだろうか。そんな日は来ないとよい、でも君みたいに笑えるのなら、来てもよい。

夜半の海 短歌食①

 

夜半の海汝はよく知るや魂一つここに生きゐて汝が聲を聴く

(よはのうみなはよくしるやたまひとつここにいきゐてながこえをきく)

 

若山牧水『海の聲』より

 

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読解は苦手だ。

文法的に正しくない、はあるのに、読解的に正しい、がないからだ。

 

歌であれ物語であれ、虚構は作者の手を離れた瞬間に膨張を始める。知識経験の相異なる読み手の、すべての読み方の数だけ、世界を得ていく。

 

読解は自由だ。

自由なんてくそ食らえ、一つで良いのだ、ただ一つの答えがあればいいのだ。

と僕は思うのだが、こりゃ正解信仰だろう。

 

そろそろ、○か×かを気にするのをやめて、

好きなことを好きなように食べていくのはどう?

 

と、いうわけで、

若山牧水の作品より、

感覚で良いと思ったものを選んで、

超適当に、自由に解釈する。

誰かとそれについて語る。

主題にしてお話を書く。

好きなようにする。

 

※一応文法的に正しいか調べはしますが、間違っていてもご愛嬌。圧倒的間違いを見つけてしまったら教えてください。

 

牧水は万葉集にも明るかったそうなので、関連する万葉和歌があるのかもしれないけど、現在の僕にそんな知識はない。

 

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夜半の海汝はよく知るや魂一つここに生きゐて汝が聲を聴く

 

 夜半の海、あなたがよく知る魂を持った人間がひとり、ここで生きて、あなたの声を聴いています。

 

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「海は母である」

「ほう。僕ら海無し県民に母はないのか」

「違うよ。どうして君はそうすぐに否定的にとるのさ。漢字を見てみなよ」

「さんずいに、かんむりをつけた母かな」

「そうそう。海はひょっとして、母が流した涙?」

「母は相当な巨体か。地球の7割が彼女の涙かよ。でいだらぼっちかな。涙じゃなくて、母の羊水かもしれない。多くのいのちは海から産まれている」

「なるほどね。生命の発生の源としての母か」

「かんむりをつけているってことは、身分の高い人なのかもしれない」

「ただの髪飾りかもよ」

「身綺麗にしている母なんだな」

 

「そう言えば、海の波音とかテレビの砂嵐とかは、母親の胎内の音に似ていると聞いたことがある」

「血管の音かしらん」

「だから乳児や幼児を落ち着かせるのに、テレビの砂嵐を付けるという手段がある。僕も妹をそうして宥めたことがある。きっと僕もそうされてきたし、この先の子供もそうされるのだろう」

「残念な話だ。君は知らないかもしれないが、今のご時世、テレビでは砂嵐は流れないんだよ」

「えっ」

「デジタル放送になったからね」

 

「海無し県民がこんなに海に焦がれるのは、ひょっとして彼女が僕の母だから?」

「君が海を好いているのはただ見慣れないからだと思うけどな」

「情緒のないことを言う。きっと、母なる海を遠く離れて暮らす僕らは時折ふるさとに帰りたくなるのだ、そして静かに母に甘えたくなる」

「君は海に行ってもはしゃぎっぱなしだろう」

「否定はしない。こらえられないわくわく感があるんだよな、海を見ると。走りたくなるし、叫びたくなる」

「子供か。たまには座って、静かに海の声を聴いたらどうだい」

「そんな。僕が黙ってるなんて、寝ているときか死んでいるときくらいのものなのに」

「勢いがいいな。波の音、鳥の飛ぶ音、風の音、海はたくさん音を持つのに、聴かないなんてもったいないよ」

「ふむ。それはなんとも魅力的だな」

「聴きにいくなら夜がいいね。ほかの生き物が眠りについた頃に、君と海だけが起きているのを感じるのがいい」

「それは面白そうだ。すべての生き物の母であるところの海を、独り占めできるのか」

「海は君のことをよく知っている。自分の子供だからね。それがいつもと違って静かに己を見ている姿に、海はどう思うだろう」

「存外なにも思わないかもしれないね。生まれたときから、魂から、僕を知るのであれば、静かなるのも騒がしいのも僕であることをきっと知っている」

「それは、確かに。その通りか」

「ああ、海に行きたくなってきた」

 

本を買うこととそのルール

彼は、本読みとは言えない程度の本読みです。

 

彼は、月に平均して15冊ほどを読了します。

読み差しの本はその3倍ほどになります。

 

読む本は、図書館で借りることが多いそうです。

家の本棚の隙間には限りがあります。

ただ、ちょっとでも気になった本は買いがちです。

家の本棚は増殖を続けています。

 

 

本を購入する時のきまりは下記だそうです。

・1度読んでもう一度読みたいと思った本

  ……図書館で何度も借りるのは手間。

・読了に時間がかかる本

  ……図書館に返し損ねるのは怖い。

・生きている作家の新作、特に漫画作品

  ……漫画は図書館で借りられない。新作は図書館で読むには借り手が多すぎる。

・何度も参照する必要がある本

  ……何度も借りる手間をお金で買う。

・学習参考書の類

  ……書き込みをするものは買って書き込む。

 

 

反対に、買わない本はこんなものだそうです。

・○○賞受賞作! と平積みされている本

  ……すぐに古本屋にたくさん並ぶ。

・題が「○○ならば○○するな」とか、不安をあおる類の本

  …もし有用なことが書いてあったとしても、その釣り方は気にくわない。

・目次を読んで興味を引かれない本

  ……そういう本は読み切れない。

 

 

そんなルールを決めてはいますが、

彼が購入に失敗することはしばしばあります。

 

僕は知っています。彼の本の1/5は、買ってから一度も開かれていないことを。

僕は知っています。彼の本の1/5は、買ってから一度も開かれずに売られたり捨てられたりすることを。

 

そんな本は、僕がちょっぴりつまみ食いします。

僕の興味と彼の興味が交差することはほとんどありませんが、

僕は、彼の興味を知るために彼の本を開きます。

 

 

今日はこれを。

『サンタクロースの大旅行』(葛野浩昭/岩波新書

まえがきに代えて

ここ最近、身の回りで、140字以上の言葉を書く人が増えた。
時間ができたからか?
呟きは残しておくことに難があるからか?
それとも、そんな動きはずっと前からあって、僕が気付かなかっただけだろうか。


まあなんにせよ、
その流れに乗っかってみようと思った。

失うもんは時間くらいのもので、
それは、ここで失わなければ別の無用で失われるもの。
僕に大した損はない。


僕の得意分野は物語だ。
ぎりぎり感想文はできるけど、
随筆みたいなのは得意じゃないし、
意見文や評論みたいなのはてんで不得手。

というわけで、ここでは、
日常の感想文か、
日常に虚構を混ぜた物語を書くことを主軸とする。


すぐ飽きるかもしれないし、
ここの存在自体を忘れちゃうかもしれない。

思い立ったら、思い出したら書くことにする。
そのくらい緩いきまりにしておく。


毎日膨張し続けるインターネットの宇宙、
僕が何を言ってもどこに何も与えないことを、忘れずに。